平成12年5月26日〜28日、愛知県大同特殊鋼体育館にて標記事業を行いまし
た。以下に、これまでの経過とその概要等をご報告します。
今回の企画は、平成12年4月9日に開催しました NTSゼネラルミーティング
の際に決定しました表1にある項目と担当者からの原案に基づき内容を整理統
合し実施しました。
表1 作成プログラムと担当者
項 目 | 担 当 者 |
1 ウォーミングアップ | 蒲生、関、東根 |
2 コーディネーショントレーニング | 角、東根 |
3 ボディコントロールトレーニング | 佐藤、末岡、田中 |
4 パスコントロールトレーニング | 山村、高村、佐々木 |
5 ゴールキーパートレーニング | 栗山、奥田 |
6 シューティングトレーニング | 松井、藤本、浜川 |
7 Man−Manトレーニング | 荷川取、金、大房 |
8 グループ戦術トレーニング | 首藤、酒巻、西窪 |
各担当者は5月10日までに、合計 100ページにもわたるプログラムを考えて
くれました。ただちに、緒方強化委員長、松井男子委員長、西窪女子委員長、
田口男子監督、伊藤女子監督に郵送し、2週間かけて細部の検討を頂きました。
以上のように多くの関係者の熱意による原案を、5月26日に蒲生、東根が翌
日の運営委員会にて決定する素案づくりを実施。27日は、運営委員、コーディ
ネーター、インストラクターによる最終討議にうつりました。この会議は深夜
までおよび、様々な意見が取り交わされました。最終的には表2のような内容
と指導者が決まり、明日を待つのみ。
28日は、愛知県下の高校・中学・小学生にモデルをお願いし、積極的なご協
力をいただき心より御礼申し上げます。みなさんの真剣な取り組みによって、
予定通りに進みました。あわせて、指導者および保護者の皆様にも厚く感謝の
意を表します。
また、前日より市原専務理事をはじめ、NTS 関係者も総勢30名が参加しまし
た。少しでもいい内容にしようと、前日の討議に引き続き、ビデオ撮影時にも
いろいろと建設的な意見が出されました。
テキスト−ビデオ−講習会が、それぞれ補い合いながら NTSのねらいである
「見つけ・育て・生かす」の根幹をなしていきます。今回は、ハンドボールプ
レーヤーとして共通に持っておきたい基本を特に強調しました。ただし、ファ
ストブレイクやフィールドテストは、時間の関係上組み込むことができません
でした。これらにつきましては、テキストで補充したいと思っています。
今回撮影した映像は、約1ヶ月かけ仮編集をし、その後解説等を入れブロッ
クトレーニング時に公開を予定しています。テキストの方も、同様のペースで
編集を進行します。あくまでも初回であり、今後各方面からのご意見などの評
価をいただき、議論を重ね修正し、よりよいプログラムを作っていきたいと考
えております。
NTS は、指導者のみなさんが「世界に通じるプレーヤー」の育成を共通理解
し、考えを膨らませる架け橋になる使命も担っています。情報を公開し、共有
し発展させるときにきています。これまで著積された情報や、新たな情報など
を持ち寄り、NTS の定着にご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
表2 ビデオ作成スケジュール
時 間 | 項 目 | 内 容 | 担 当 |
9:00 | ウォーミングアップ2 | アクティブタッチ | 佐 藤 |
9:15 | コーディネーション3 | 4:4タッチハンド | 佐 藤 |
9:30 | ボディーコントロール1 | フットワーク(フロント,サイド,スリークロス) | 佐 藤 |
9:45 | ボディーコントロール2 | ディフェンスフォーム(アッタック・シュートブロック) | 佐 藤 |
10:00 | パスコントロール2 | パラレル・クロス | 佐 藤 |
10:15 | パスコントロール3 | 3:3パスゲーム | 佐 藤 |
10:30 | パスコントロール4 | ゲームシチュエーション | 佐 藤 |
10:45 | シュートコントロール2 | ドリブルシュート | 松 井 |
11:00 | シュートコントロール3 | ノーマークシュート | 松 井 |
11:15 | シュートコントロール4 | スリーポジションシュート | 松 井 |
11:30 | Man-Man1 | 1:1パスゲーム | 藤 本 |
11:45 | Man-Man2 | フェイントトレーニング(ステップ・シュート) | 藤 本 |
12:00 | Man-Man3 | フェイントトレーニング(スイング・ローリング・ジャンプ) | 藤 本 |
12:15 | Man-Man4 | 1:1ゲーム | 藤 本 |
| | 昼 食 | |
13:00 | ウォーミングアップ2 | ドリブルウォーミングアップ | 東 根 |
13:15 | コーディネーション1 | ワンマンドリル | 東 根 |
13:30 | コーディネーション2 | ツーメンドリル | 東 根 |
13:45 | パスコントロール1 | スローイング・キャッチングの基本フォーム | 東 根 |
14:00 | シュートコントロール1 | ステップ・ジャンプ・ランニングシュート | 松 井 |
14:15 | グループ戦術1 | オフェンス2:2(パラレル・クロス・スクリーン) | 首 藤 |
14:45 | グループ戦術2 | オフェンス3:3(パラレル・クロス・スクリーン) | 首 藤 |
| | 休 憩 | |
15:30 | グループ戦術3 | ディフェンス(2:2の基本) | 佐 藤 |
16:00 | ゴールキーパー1 | 基本フォーム、コーディネーション | 栗 山 |
16:30 | ゴールキーパー2 | ポジショニング,セーブトレーニング | 栗 山 |
17:00 | ゴールキーパー3 | パスアウトトレーニング | 栗 山 |
2000年指導ポイント
「基本技術の向上とコーデイネーション能力アップ」です。
世界で戦うには、基本的な技術・戦術の完成度に裏打ちされた固有技術の有
無が重要です。実践で、瞬時に戦況を把握し、速く強く正確にそして効果的に
プレーできるかが基本の「質」にかかわってきます。このような基本の習得は、
ゴールデンエイジ(9才〜12才頃)が最適といわれています。そしてポスト・
ゴールデンエイジ(13才頃以降)では、それまで身につけた技術をより速く、
強く発揮できるようになります。
以上のような理由により、早い時期に基本動作を完成させる必要があるので
す。しかも、全国各地で共通の基本を習得しますので、「質」の高いプレーヤ
ーが育ちます。もちろん次にテーマとなる固有技術つまり独自性もあわせて育
成する必要があります。
どの世代も共有している基本。これまでは残念ながらなかったのではないで
しょうか。
さらにこういった基本をより発展させる基盤として、コーデイネーショント
レーニングがあります。パワーはあるが技術がどうも、というプレーヤーを見
かけます。それはたいていの場合、各筋肉群を互いに効率よく調整(コーディ
ネート)できていないのです。各筋肉群の効果的な協調活動ということに、コ
ーデイネーショントレーニングということばの由来があります。
一方で、「センスがある」「バランスがいい」「ボールハンドリングが上手」
「ヨミがいいねえ」といった声をよく開きます。これらの「動き」は、神経−
筋が効果的に協調活動をしており、コーデイネーション能力が高いプレーヤー
なのです。
つまりコーデイネーショントレーニングとは、身体の神経一筋の運動性を高
め、身体をコントロールする能力を向上させようとするトレーニングです。
「動き」をつくり出すさまざまな要素を組み合わせて、新たな機能を創造する
側面を持っています。特に神経系が著しく発達するプレ・コールデンエイジ
(5才〜8才頃)では、多面的・多様性のある運動が重要であり、将来の競技
力開花に直結しているといえます。
このトレーニングにより、「動き」の学習や修正が容易になります。また、
技術・戦術と深く関わりがあるため、将来の「伸び」に欠かせないトレーニン
グです。
表3にコーデイネーション能力を構成する要素を示しました。
表3 コーディネーション能力の構成要素
定位能力 | 絶え間なく動いている味方、相手、ボール並びにゴールとの関係で、自分の
身体の位置を時間的・空間的に正確に決める能力(情報処理) |
変換能力 | プレーの最中に(例えば相手をかわしているとき)突然知覚した、あるいは
予測された状況の変化に対して、運動を切り替える能力(予測、先取り) |
識別能力 |
タイミングを合わせ、ほどよい力加減で緻密な行為をするために、身体各部
を正確に、無駄なく互いに同調させる能力(巧緻性、ボール感覚) |
反応能力 |
予期されていた信号、あるいは予測されなかった信号(例えばそれたボール)に
対して合目的的なプレーを素早く開始する能力 |
連結能力 |
ボールを操作するここの技術・戦術的行為を空間的・時間的かつダイナミック
につなぎ合わせる能力(コンビネーション能力) |
リズム能力 |
自身の運動リズムを見つけたり、真似したり、さらには決定的なタイミング
をつかむ能力 |
バランス能力 |
空間や移動中における身体バランスを維持したり、崩れをすばやく回復させる
能力 |
コーデイネーション能力は、決して「それ自体」では存在せず、必ず「何か
に対応して」存在します。例えば、フェイント動作の際にバランスを保持する、
あるいはディフェンスの妨害に対して素早くバランスを回復するには、ハンド
ボールの専門能力や筋力が必要です。コーデイネーション能力の中でも複数が
組み合わさり、様々なプレーを作り上げています。例えば、GKのキーピングで
は定位能力と反応能力が、そしてパスについては定位能力と識別能力がよりは
っきり現れます。
日本でもこれまでやられていたのですが、バランスならバランス、ボール感
覚はボール感覚といったように、個別に取り出して実施していたように思われ
ます。そこで今回、体系化した理論とプログラムを共有化しようと考えました。
以上の指導ポイントを踏まえ、NTS を展開します。発育発達に合った最適な
トレーニングを行い、将来世界で活躍する人材をハンドボール界全体で育成し
ていきましょう。
(財)日本ハンドボール協会機関誌「ハンドボール」7月号より転載