<機関誌2008年10月号巻頭言>


「体育教師としての感性をさます」



  (財)日本ハンドボール協会参事・学校体育ハンドボール検討専門委員会委員長 佐藤 靖 


kantogen-0810
 「子どもが最初にハンドボールに触れる場を提供できるのは小学校の体育授業です。教
科体育へのハンドボールの確かな位置づけが普及・発展の基盤になります」。勝敗に拘泥
した部活動指導に明け暮れ、鈍っていた体育教師としての私の感性は、まさにこの言葉に
よって覚醒したようです。学校体育とは、学校という教育機関の責任のもとで、児童や生
徒そして学生を対象に、意図的、計画的に行われる体育のことです。それゆえ小、中、高、
大を問わず、体育教師としての責任があるわけです。平成7年、冒頭の言葉のように、
(財)日本ハンドボール協会前専務理事、大西武三先生の先見の明があって、学校体育に
おける教科体育に関する諸問題に対応するために、(財)日本ハンドボール協会指導・普
及部会のなかに専門委員会が設立されました。確かに学校では、正課の活動としての教科
体育や体育行事等が中心となり、それらが課外の活動としての部活動と相互に関連を保ち
ながら、それぞれの立場で人間形成や生涯スポーツという側面から体育全体に寄与してい
ます。しかもわが国のスポーツの普及・発展は、この学校体育の充実が引き金となって社
会体育に繋がっていくという構造に支えられています。したがって、とりわけ教科体育で
しっかりとした内容を子どもに習得させる意義は非常に大きいといえます。

 これまで、大西先生、そして(財)日本ハンドボール協会常務理事、角紘昭先生のご指
導のもと、本委員会が中心となり、ハンドボール研究集会の開催、「ハンドボール研究」
の刊行、実践研究推進校の選定、学習指導要領改訂期における文科省への対応等、幾つか
の活動を継続的に手がけてきました。これらの活動の成果も追い風となったのか、小学校
におけるハンドボールの授業実践はずいぶん各地域に浸透してきたようです。それはこれ
までの研究集会における全国からの60題以上におよぶ実践報告等が示す通りです。そこで、
私が委員会活動を通して学んできたことを基に、普及について、体育教師の在り方という
側面から提言したいと思います。

 1.ハンドボールの教材としての良さを分かる
   自分が専門とする種目の教材価値を知っておくべきでしょう。今年の3月に改訂告
  示された小学校新学習指導要領では、第5・6学年のボール運動が現行の種目の列挙
  を改め、「ゴール型」、「ネット型」、「ベースボール型」の3つに分類され、主と
  して取り扱う種目に替えて「それぞれの型に応じたハンドボールなどのその他のボー
  ル運動」も選択できるようになりました。今回の改訂では、分類視点は幾分不明瞭で
  はありますが、ある程度、種目を超えて種目を評価できるようになりました。「ゴー
  ル型」に属するハンドボールは、ラリーが難しい「ネット型」のバレーボールと較べ
  てパスが繋がります。さらに同類のバスケットボールやサッカーと較べても、得点場
  面を多く作り出せるだけでなく、ボールを思い切り投げることができます。すなわち
  ハンドボールは、ボール操作が容易なため、戦術学習に向いているので、「ゴール型」
  の典型教材といえます。

 2.自ら良い授業を求める
   その時々に、自分の足場とするべき授業を反省してみましょう。「子どもは何を望
  んでいるのか」、「子どもに何を身につけさせると運動が上手になり、好きになるの
  か」、「そのために教師にはどのような能力が求められるのか」等、良い授業を求め
  て模索するのが良いと思います。その際、発育・発達の著しい子どもたちと日々真剣
  に向き合っている小学校教師の授業づくりや教材づくりに目を向けてみましょう。そ
  こには運動の苦手な子どもの指導法はもとより、一貫指導体系を確立するための糸口
  が凝縮されているのに驚かされます。

 3.自ら社会に開かれる
   部活動に本当の情熱をもっている指導者であればこそ、学校開放に主体的に働きか
  け、子どもから大人までが活動できるように、場所と時間と指導者(選手を含め)を
  少しでも提供できるのではないかと思います。昨今、大学を拠点にし、このようにし
  て創設されたスポーツクラブが増えつつあります。

 4.実践報告や実践研究を積み重ね、成果を共有する
   各人の指導実践の成果を何らかの形にし、様々な場で公表してほしいと思います。
  それが実践報告や事例検討になろうと、研究の体裁にとらわれず、記述し、まとめて
  いくなかで何かが見えてきます。個々の経験財を蓄積し、文化財として共有できるよ
  うにするという営為を通じて、いずれは教科書や役に立つ指導書等が作成されていく
  ものと思います。

 ハンドボールを専門とする体育教師としての感性をさます契機は、ハンドボールとの様
々な関わりかたに気づいたり気づかされたりするなかで、ハンドボールの真の姿を自ら求
めていく姿勢にあると思います。



  (財)日本ハンドボール協会機関誌「ハンドボール」2008年10月号より転載