<機関誌2008年9月号巻頭言>


「今、改めてハンドボール競技を振り返る」



         (財)日本ハンドボール協会 常務理事・競技本部長  江成 元伸 


kantogen-0809

 北京オリンピック予選が終わり、この機関誌が発行されている頃には、本番の北京オリ
ンピックも無事に終了していることと思われます。今年の1月、本当に嵐のように大騒ぎ
をした、あの熱気を再び、と思う毎日です。

 さて、私たちは毎日いろいろな環境で練習をし、そして各種大会に参加していますが、
私たちが行っているハンドボールは、世界で行われているハンドボールと本当に同じなの
でしょうか。野球やサッカー、ゴルフなどの競技は、国際的なメジャーな大会がメディア
を通して、毎日接することができます。また、多くの日本人プレーヤーが国際舞台に立ち、
大活躍をしていることから、各競技のいろいろな情報に触れることができます。これらの
競技では、日本の国内で行われている競技と世界の競技にうまさ、強さの差こそあれ、環
境的に差こそあれ、同じプレーが行われています。

 日本のハンドボールも、世界で行われているハンドボールと同じプレーをし、同じ環境
で行っていることは事実です。しかし、細かいことを指摘すれば、いくつかの大きな差が
見られます。一つは、ハンドボール競技は屋内競技として位置づけられているにもかかわ
らず、日本では体育館で練習、試合をする機会が非常に少ないことがあげられます。一般
の方は、ハンドボールは屋外競技だと思っている方も多くいるのではないでしょうか。日
本のハンドボール競技者でも、練習は屋外で、試合は屋内でいうのが当たり前、と思って
いないでしょうか。屋内と屋外、ここには技術的に大きな差があります。屋外コートでは、
ボールハンドリング、ランニング、ストップ技術など、プレーの習得に不利な条件となっ
ています。屋外では、松やにの使用は許されています。しかし、体育館ではトップの試合
を除き、ほとんどが松やにの使用を禁止され、両面テープで対応せざるを得ません。

 また、正規コートの広さを確保できる体育館の数が、あまりにも少ないということがあ
げられます。高等学校の体育館の広さは行政の基準で決められており、ハンドボールは基
準の中に入っておりません。ましてや、中学校、小学校ではさらに狭くなり、体育館で練
習を行えるチームの数は多くないでしょう。国民体育大会を開催するときは、正規コート
の広さをもつ体育館が6コート、もしくは5コート必要で、それらの体育館で大会が開催
されます。しかし、大会が終了すると、ハンドボールとして利用する機会はめっきり少な
くなると聞いています。

 最近開発されているボールのコンセプトは、松やにを使用しなくてもグリップ性能を高
めることを目的とし、そのようなボールが発売されています。しかし、グリップ性能を高
めるということは、ボールを握りやすくするために、ボール表面を柔らかくせざるを得ま
せん。ところが、世界で使用されているボールは固くて使いにくいものなのです。

 世界で日本の競技者が羽ばたくためには、常に正規の広さを持った体育館で、固いボー
ルで、世界と同じハンドボール競技ができなければばならないのです。

 日本の大多数のハンドボールの競技者にとって、ハンドボールとは、「やる競技」であ
って、「見る競技」ではないようです。競技者だから競技をすることが第一なのは当然で
すが、世界のハンドボールに触れましょう。見る機会を増やしてください。いやいやそう
はいっても、国内のハンドボールですら、テレビやメディアに登場しないじゃないか、日
本協会もっとがんばれよ、といわれる人も多いと思います。「がんばれハンドボール10万
人会」もここにきて、競技者と愛好者で、実数として10万人を超しております。しかし、
この方たち以外にも、大学同好会リーグなどで競技をする人、今まで小・中・高・大学で
クラブ活動として競技をする人たちがいるはずです。この方々を加えれば、ハンドボール
人口は30万人、50万人となるはずです。その方々を入れて、ハンドボールとは正規の広さ
を持つ体育館がなければ競技はできない、松やにを使わなければ上手になれない、テレビ
で放送してほしい、という日本のハンドボール文化になるよう、みんなで大きな声を出し
続けませんか。



  (財)日本ハンドボール協会機関誌「ハンドボール」2008年9月号より転載