<機関誌2008年8月号巻頭言>


「ロンドンに向けて… ナショナルトレーニングセンターの活用」



         JOC専任コーチ・(財)日本ハンドボール協会常務理事  田中 茂 


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 既に、ご存知の皆様も多いかと思いますが、今年(2008年)1月21日よりナショナルト
レーニングセンターが利用可能となり、ハンドボールは初日より、既に多くの代表カテゴ
リーが選手強化のため、このナショナルトレーニングセンターを利用しています。今まで
にないトレーニング設備、宿泊、食事等で十分な環境は整ってきたと思います。

 今回はナショナルトレーニングセンター施設、またナショナルトレーニングセンター
JOC専任コーチの役割について報告いたします。

■ナショナルトレーニングセンターについて

1)オリンピックなどの国際競技大会における日本代表選手の活躍は、多くの国民を魅了
し、夢と感動を与え、活力ある明るい社会の形成に寄与することになります。
 我が国のスポーツ界では、1964年に開催された東京オリンピック大会を契機に、これら
のトップレベルアスリートを集中的・長期的に育成・強化するための専用トレーニング施
設の必要性を国に要望していましたが、具体的な計画には至りませんでした。
 しかし、スポーツ振興基本計画(2000年9月)において、我が国におけるトップレベル競技
者の国際競技力の総合的な向上を図るため、ナショナルレベルのトレーニング拠点の整備の
必要性が示されていました。
 ナショナルトレーニングセンター中核拠点施設は、この計画に基づきトップレベル競技
者が同一の活動拠点、集中的・継続的にトレーニング・強化活動を行うための拠点施設で
す。
 ナショナルトレーニングセンター中核拠点施設は各競技の専用練習場を備えた屋内トレ
ーニング施設、陸上競技を中心とした屋外トレーニング施設及び宿泊施設等からなり、隣
接するJISS(国立スポーツ科学センター、西が丘サッカー場等)と連携を図ることにより、
スポーツ科学・医学・情報を取り入れた効果的なトレーニングを行うことができ、我が国
のナショナルレベルのトレーニング施設の中核拠点としての役割を担っています。
 今回のナショナルトレーニングセンターの設置は、日本スポーツ界にとって約半世紀に
及ぶ悲願が実ったものとなっています。施設自体は今後も拡充していく必要がありますが、
我々スポーツ界はこの施設を有効活用し、結果を出す責務を担ったことを認識していかな
ければなりません。

2)ナショナルトレーニングセンターの活用理念
・各競技における国際競技力向上のためのトレーニングを集中的かつ継続的に行うととも
 に、隣接するJISS(国立スポーツ科学センター)と連携し、スポーツ情・医・科学を活
 用した効果的な強化を図る拠点とする。
・一貫指導システムに基づき、競技者の発掘・育成ならびに ナショナルレベルの指導者
 養成を積極的に推進するための 拠点とする。
・複合トレーニング施設の機能を十分に活かすため、一競技 団体での選手強化の限界を
 超えるための競技間連携を促進し、「チームジャパン」としての連携を確固たるものと
 する。

3)ナショナルトレーニングセンター中核拠点、専用施設について
・JISS(国立スポーツ科学センター):競泳・シンクロナイズドスイミング・新体操・ト
 ランポリン・フェンシング・射撃
・屋内トレーニング施設(ナショナルトレーニングセンター):ボクシング・バレーボー
 ル・体操・バスケットボール・レスリング・ハンドボール・ウエイトリフティング・卓
 球・柔道・バドミントン
・屋外トレーニング施設:陸上(400Mトラック)・テニス・サッカー(西が丘サッカー場)
・宿泊施設:宿泊室(258床)・食堂・大浴場等

■ナショナルトレーニングセンターを活用した強化事業

1)JOCスポーツアカデミー事業
・JOCナショナルコーチアカデミー
 【趣旨】オリンピックを始めとする国際競技大会で活躍できる選手の育成・指導ができ
 る我が国を代表する真のエリートコーチ及び我が国の国際競技力向上に関わる各種スタ
 ッフの養成を目的とする。
・JOCエリートアカデミー
 【趣旨】オリンピックを始めとする国際大会で活躍できる選手を育成する。また、優れ
 た素質を有する競技者の育成のため、ナショナルトレーニングセンター近郊等の教育機
 関と連携し、競技者への学校教育と世界に通じる競技者としてのスキル教育を行うとと
 もに、将来にわたり日本を代表し社会で活躍する人材として育成するための環境を整備
 する。
・JOCキャリアアカデミー
 【趣旨】トップアスリートの育成・強化を進める上で、競技生活引退後の不安を取り除
 き、選手活動に専念できる環境整備、アスリート自身が主体的に将来の生活設計に取り
 組むための環境を提供すると共に、トップアスリートの人的資源の社会還元を促進させ
 る。

■ナショナルトレーニングセンター専任コーチの役割

【役割】
・ナショナルトレーニングセンターを選手強化の中核拠点として位置づけ、オリンピック
 競技大会をはじめとする国際競技大会で活躍できる競技者を、各競技団体が進める一貫
 指導システムに基づき、ナショナルトレーニングセンター専任コーチが育成・強化を推
 進する。
【ハンドボール専任コーチ】
【業務内容】
・各カテゴリー代表合宿準備、サポート(練習場所確保・宿泊予約・環境整備・備品整備
 ・会計報告等)
・合宿でのコーチングサポート
・強化策立案、実施(NTCジュニアアカデミー・NTC活動)
・強化事業発案、事務処理(大会企画・運営協力)
・映像分析、データ管理
・指導、普及事業協力
・競技間連携事業(コーチ間交流・情報交換)
・ナショナルコーチアカデミー事業協力
・国際連絡、連携(海外強化合宿・強化試合・国際大会参加)

■JHAジュニアアカデミーについて

 ハンドボール専任コーチとして上記業務内容のなかでも、JHAジュニアアカデミー事業
は、ナショナルトレーニングセンターができ、専任コーチとしての、最大の仕事だと考
えております。
 JHAジュニアアカデミーについては、JOCエリートアカデミー事業同様に、ジュニアの選
手を特別に強化し、中期、長期計画の下、代表強化を行って行きたいと考えております。
【基本方針】
 ハンドボール選手としての個人技能・能力のレベルアップを図り、世界に通じる選手と
 してのスキル教育を行うとともに、将来にわたり日本を代表し社会で活躍できる人材と
 しての育成を行う。更には、人間形成の支援と競技力向上の両立を図る。また、選手と
 しての強さを身に付けるために、体力トレーニングを重点項目とし、体格を形成する事
 を行う。
【趣旨】
 日本ハンドボールのオリンピック出場、メダル獲得に向けた中期・長期継続強化計画の
 ためのエリート教育。
【対象者】
 個人能力に優れた選手、または将来日本代表として活躍出来る素質、資質を持った選手。
 かつ、本事業の趣旨や方針を理解し、日本ハンドボール協会が認めた選手。
【活動期間】
・年6回計画 1回(1週間・4日間のプログラム) 平成20年度
・実施スケジュール別紙参照(平成20年度)
・年10回計画 1回(1週間・4日間のプログラム) 平成21年度より実施
【活動場所】
・NTCナショナルトレーニングセンター
【指導者】
・実技指導 田中 茂(NTC専任コーチ)
      NemesRoland(JOCジュニアコーチ)
      市来 未央(J0Cジュニアコーチ)
      日本ハンドボール協会ナショナルスタッフチーム
・教育指導JOCアカデミースタッフ、その他外部指導者
【プログラム】
・実技
・個人の能力、技術アップメニュー
・身体作り(ウェートトレーニング・長短距離走・水泳トレーニング)
・体力、形態測定
・知的プログラム・人間教育プログラム
・オープンマインド…心を開き、素直にかつ相手を配慮した言動、行動、物事に取り組む
 姿勢を養う。
・コミュニケーションスキル(専門指導)…話す、聞くなどわかりやすく相手とコミュニ
 ケーションできる能力を養う。
・ロジカルシンキシグ(専門指導)…論理的な思考や深くスピーディにわかりやすく伝え
 る能力を養う。併せて意思決定に必要な体系的な考え方を養う。
・ITリタラシー(専門指導)…ITに係る知識、能力を養う。
・コンセプチュアルスキル(専門指導)…問題解決、提案、分析能力を養う。
・語学学習(NemesRoland 指導)…英会話実習。
・メディア対策(専門指導)…新聞記者、TVインタビュアーから対応の仕方を学ぶ。
・講話学習(専門指導)…様々な人とのコミュニケーションを通して考え方や物事に対す
 る取り組み、リーダーシップ、国際感覚、礼儀を学ぶ。
・キャリアサポート(専門指導)…ファーストキャリアにおいてキャリアトランジット対
 応の為の啓蒙を行う。
・体力プログラム・健康管理プログラム
・フィットネス(専門指導)…体力向上の為の基礎知識、方法論を学び正しい姿勢での実
 技実習を行う。各種体力向上プログラム(個人能力測定)を作成し定期的な測定による、
 意識の向上、自ら体力の向上に取り組む姿勢を養う。
・食事と栄養(専門指導)…バランスの取れた食習慣を身に付ける。毎日の食事のアドバ
 イス・チェック、相談できる体制を整え、食事と栄養の大切さを学習し自ら食育に対し
 ての意識を養う。

 ナショナルトレーニングセンターが完成し、また、ハンドボール界でも若い選手の育成、
強化が代表チームでの課題ともなっています。日本代表として悲願のオリンピック出場に
向け、日々努力して行きたいと考えております。皆様のご理解、ご協力をお願いできれば
と思います。多くのハンドボール指導者、選手、関係者の力を結集し、ロンドンオリンピ
ックに向け頑張っていきましょう。



  (財)日本ハンドボール協会機関誌「ハンドボール」2008年8月号より転載