<機関誌2001年6月号巻頭言>


企業スポーツと日本リーグ





          (財)日本ハンドボール協会副会長   山下 泉

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 第25回日本ハンドボールリーグは、3月18日のプレイオフをもって全日程を終

了した。私自身第20回大会から6年間リーグ委員長を担当し、無事に大役を終え

ることが出来ましたことは、ハンドボールを愛する皆様方の暖かいご指導とご支

援の賜物と厚くお礼申し上げます。



 日本経済の長引く不況であらゆる競技における企業スポーツが休・廃部に追い

込まれ、21世紀を迎えた現在でも続いている。



 日本ハンドボールリーグを担当した20回は28チームであったが、23回の30チー

ムをピークにリーグ撤退が相次ぎ、25回大会は23チームに減少した。シーズン終

了後に「三陽商会」、「デンソー」の2チームの撤退も確定している。26回大会

は「三景」(ホームタウン福井)の復活は明るい材料であるが、「三陽商会」の

脱退で東京をホームタウンとするチームが皆無となり、メディア情報集積地であ

る東京地区でのリーグ開催が無くなることはマスコミ露出度の減少という現実が

待ち構えている。東京集中開催を早急にスケジュール化しなければならない。現

在「HC.東京」として「三陽商会」、「中村荷役」で活躍した選手が結集して

クラブ組織でリーグ参加を模索している。ぜひ実現にむけて全国のハンドボール

ファンのご支援をお願いするものである。



 委員長として、休・廃部したチームのオーナーに長年の日本リーグに対するご

尽力に敬意を表し、早い機会にリーグの復活をお願いする為に訪問した。当然リ

ーグ撤退の理由は企業により異なるが、一番目は「やはり不況で止めざるを得な

い」である。明確な表現としては得られないが、もう一つの共通した理由に、チ

ーム選手はこれまで試合だけをしていれば良かった時代から現在の社会の構造の

変化に対して意識改革が出来ず、いつまでも特別扱いが許されるという思い込み

があり、他の社員や株主に説明出来なくなってリストラの対象とされたことが挙

げられる。最近は不況企業だけでなく、好業績の企業まで休・廃部の傾向が表面

化している。このことをチーム関係者は深刻に受け止め、経営者や社員、そして

地域に対して社会貢献活動をしている情報を積極的に伝達する努力が必要である。



 企業スポーツの役割は終わったような報道を度々目にするが、本当にそうだろ

うか? シドニーオリンピックで活躍したほとんどの選手が企業チームに所属し、

暖かい支援を受けている。まだ企業スポーツが日本のスポーツ振興に果たす役割

は非常に大きなものがある。文部科学省の提唱する総合型地域スポーツクラブに

移行することが理想ではあるが、トップレベルのチームを支持できるだけの地域

クラブはどの都市においても無いのが現状である。



 長い歴史の上に育成された欧米型のスポーツクラブは2年や3年で出来るもの

ではなく、企業スポーツを基軸とした我が国のスポーツ体制を急激に変えること

は困難であり、ある程度の期間が必要となる。どう対応することにより、生き残

りが出来るかを思考すると、この問題の解決は一企業の枠を越えて行政が地域の

市民を取り込み三位一体となって連帯することにある。企業チームがハンドボー

ルを通じて地域社会にどういう方法、手段で貢献出来るかを真剣に考え視点を変

えていかなければならない。地域貢献を考えず、地域の市民に受け入れられない

企業はいつのまにか淘汰されることになる。



 一方、経営者サイドでみれば経営戦略としてチームの解散はマスコミに大きく

取り上げられ、リストラの手段として社員や株主に大きなインパクトを発揮し、

効果的なものとなるので、理解することも出来る。



 広島ではそのような危機感を先取りして「トップス広島」を結成した。プロサ

ッカー・Jリーグのサンフレッチェ、男子バレー・VリーグのJT、女子バスケ

ットの広島銀行、そしてハンドボールリーグの男子・湧永製薬と、女子・イズミ

の5チームが連携し、競技の枠を越えた相互協力で地域のスポーツ振興を図ると

いう。国内で初の試みである。一つのチームより連帯して活動することで、幅広

い層を巻き込んだ組織づくりを進めることが出来、クラブを支援することが企業

のステータスになるような環境作りを考えての行動である。この原点はJリーグ

の 100年構想に基づく地域密着型のチームづくりという理念に共鳴したものであ

る。今後試行錯誤を重ねて大きな組織になることが期待される。



 今年第26回を数える日本リーグは21世紀を迎え、確実に変革の時代という大き

な試練を抱いてのスタートである。早い時期にプロ化を目指したスーパーリーグ

構想を真剣に考える時代の到来が予測される。リーグの存続と繁栄は、小・中・

高・大とハンドを通じてスポーツ活動をしている子供達に日本リーグでプレイし

たいという夢を実現させることになり、どの様な受け皿づくりをしなければなら

ないかを考えなければならない。当分の間、企業チームの必要性は続くことにな

り、その為にはアテネ五輪出場という目標に向けて協会全体で活動しなければな

らない。





    (財)日本ハンドボール協会機関誌「ハンドボール」6月号より転載