コラム
世界のハンドボール

第2回 ヨーロッパの男子ハンドボールリーグ


 ドイツとデンマークに端を発するハンドボールは、アジア、アフリカ、南米など世界中に広まったが、現在最も盛んに行われているのはヨーロッパである。多くのヨーロッパ諸国では、秋冬制のリーグ戦が行われている。それら全てがプロフェッショナルリーグという訳ではなく、プロ、セミプロ、アマチュアと環境は違う。

 そこで、今回はヨーロッパハンドボールをカップ戦、リーグ戦という2つの側面から説明していく。



ヨーロッパで行われるEHF主催のカップ戦

 欧州52の国と地域協会を統括しているのが、オーストリアのヴィーンに本部を構えるヨーロッパハンドボール連盟(EHF)だ。EHFは統括するだけでなく、サッカーのUEFAと同様に大陸間の国際カップ戦を主催している。EHFが主催している代表/クラブチームの大会は以下の4つである。

 1. EHF EURO(ヨーロッパ選手権)
 2. VELUX EHF Champions League
 3. EHF Cup
 4. Challenge Cup
 ※上記以外の有名な大会はSEHAリーグという東欧諸国独自に行われている国際カップ戦がある。

それぞれを簡単に説明すると、

EHF Cup:フュクセ・ベルリン(GER)対シャンベリー・サヴォワ・モンブラン・アンドバル(FRA) (筆者撮影)

1. EHF EURO(ヨーロッパ選手権)
2年に1度、1月に行われるヨーロッパ最強国を決める大会であるが、オリンピック及び世界選手権出場権の獲得レースも兼ねている。

2. VELUX EHF Champions League
VELUX EHF Champions Leagueは、デンマークの天窓メーカーであるベルックス社が冠スポンサーを務める、文字通り各国リーグの優勝/上位チームのみ出場出来る、欧州No.1を争う大会である。

 

3. EHF Cup

EHF Cupは上位国の中上位、中位国の準優勝チーム、下位国の優勝チームが参加出来る、サッカーで言う所のUEFAヨーロッパリーグに当たる大会だ。

4. Challenge Cup
Challenge Cupは中位〜下位国の中上位チームが参加する大会になる。

 これらのカップ戦に出場するにあたって、重要となってくるのが各国のリーグ順位である。そこで、次にカップ戦への出場チームの決まり方と合わせて、ヨーロッパのリーグ事情へと話しを進めていく。

カップ戦への出場チームの決まり方

 どのカップ戦に、どの国から何チーム出場出来るかは、EHFリーグランキングという指標を使う。正式名称は『The EHF Ranking List for the men's continental club competitions』だが、便宜上今回はリーグランキングと呼ばせてもらう。過去3年分のEHF主催カップ戦におけるクラブチームの戦績を数値化し、国別に順位づけする。これはあくまでクラブチームの戦績で、ランキングがそのまま代表チームの序列を意味するものではない。

参考までに2017/2018シーズンの上位7カ国を挙げる。

資料:各国リーグ公式ホームページより作成

1. ドイツ: DKB Handball-Bundesliga
2. ハンガリー:K&H férfi kézilabda liga
3. スペイン: Liga ASOBAL de Balonmano
4. フランス: Lidl Starligue
5. ポーランド:PINiG Superliga
6. デンマーク:888Ligaen
7. スロヴェニア:NLB liga

以降の国については、本稿の末尾にリンクを載せているので、そちらより参照頂きたい。

 右の図はランキング上位のリーグを地図に落とし込んだものである。イギリスとイタリアが欠けているのはサッカーと大きく異なる点だが、欧州カップ戦で結果を残しているチームが広範に散らばっているのはハンドボール独特の特徴と言える。

ヨーロッパにおける試合の視聴環境

 多くのリーグでは試合がテレビ/インターネット放送されている。
 ドイツでは、Pay-TVのSport1が1部リーグを毎節2試合生中継し、またインターネット動画配信サービスのDAZNも中継している。TV、DAZNで中継されないチームは、独自にYouTubeチャンネルでライブ中継を行っている。また、DOSB(ドイツオリンピック連盟)の運営するライブストミーングチャンネルSport Deutschland TVでは、3部リーグの一部の試合を中継している。
 フランスでは、Pay-TVのbeIN Sportsが毎節2試合を生中継している。欧州カップ戦の場合だと、Pay-TVの大手B Sky BがEHFチャンピオンズリーグの放映権を獲得し、beIN Sportsにも権利を販売している。

選手が戦うリーグ環境

 まず、ドイツのDKBハンドバル・ブンデスリーガの試合数を紹介する。
 ホーム&アウェイ方式で年間34試合(8月下旬〜6月上旬)とDHBポカールという国内カップ戦(8月中旬〜4月上旬)がある。さらに欧州カップ戦を勝ち上がるチームは1シーズンで最大60試合程度戦う。2部でも年間38試合のリーグ戦とDHBポカールがある。
 次に、フランスのリドル・スターリーグは、ホーム&アウェイ方式で年間26試合(9月上旬〜6月上旬)あり、加えてCoup de France(フランスカップ)、Coup de Ligue(リーグカップ)と呼ばれる2種類の国内トーナメントがある。欧州の大会で上位に進出するチームは50試合近くをこなしている。

 参考までに日本リーグの場合は、リーグが年間18試合、プレーオフが1〜2試合、日本選手権が1〜4試合、社会人選手権が3〜5試合と、最も試合数のあるチームで29試合。ブンデスリーガのリーグ試合数(34試合)に満たない数字である。

過酷な環境が熱狂的なファンを生み出す

 前述の通り、ヨーロッパのハンドボールリーグがいかにタフであるか、おわかりいただけたと思う。しかし、この過酷な環境は、ファンを惹きつけてやまない要因の1つではないかと考えている。
 試合数が多いということは、それだけファンがチームの試合を応援する機会が多いことを意味する。そして、ファン達は選手がいかに過酷な環境で闘い続けているかを知っているため、それだけ応援にも熱が入る。
 1シーズンを通して応援する機会が多く、自然と1試合1試合熱のこもった応援をしたくなるのは、ファンとして応援のしがいのある環境だと言えるのではないだろうか。
 そんなヨーロッパハンドボールは、EHFが運営しているehfTVで日本からも無料で試合を観ることができる。


《視聴可能試合》
・EHF EURO予選、本選
・VELUX EHF Champions League
・EHF Cup
・DKB Handball-Bundesliga(ドイツ)
・Liga ASOBAL de Balonmano(スペイン)
・Women’s EHF Champions League
・Women’s EHF Cup

 試合の中継時間は、日本時間の深夜もしくは未明にあたることが多い。ただ、録画された試合も視聴可能だ。是非、この環境を活用してヨーロッパリーグの雰囲気を味わって頂きたい。

(文中敬略称)


 

参考


EHF TV http://www.ehftv.com/
SEHA-Gazprom League http://www.seha-liga.com
Sport Deutschland TV http://sportdeutschland.tv/handball
the EHF Ranking List for the men’s continental club competitions,EHF
http://cms.eurohandball.com/PortalData/1/Resources/3_other_ec/3_download_pdf/MEN_Placedistribution1718_Final.pdf


公益財団法人日本オリンピック委員会『競技紹介 ハンドボール』:http://www.joc.or.jp/sports/handball.html
European Handball Federation http://www.eurohandball.com
VELUX EHF Champions League http://www.ehfcl.com
DKB Handball-Bundesliga http://www.dkb-handball-bundesliga.de/home
Sky http://www.sky.de
DAZN https://www.dazn.com/de-DE
Lidl Starligue http://www.lnh.fr/lidl-starligue/accueil
beIN Sports http://www.beinsports.com/site-locator
日本ハンドボールリーグ http://www.jhl.handball.jp



筆者
日本ハンドボール協会 ヨーロッパ特派員

小林 遼平(Ryohei Kobayashi)

プロフィール
1987年神奈川県藤沢市生まれ。早稲田大学スポーツ科学部卒。
現在、ドイツ連邦共和国ラインラント=プファルツ州マインツ在住。
大学生時代ドイツへ旅行した際にマンハイムのSAP Arenaで観たVELUX EHFチャンピオンズリーグRhein-Neckar Löwen対FC Barcelonaで感じた興奮と、アイスランド代表のGudjon Valur Sigurdsson(Rhein-Neckar Löwen)によるファンサービスへの感動から、ドイツハンドボールへ憧憬を覚える。卒業後、東証一部上場メーカーで勤務するも、休暇を利用して訪れたドイツにて、HSV Hamburg のイベントマネージャー、THW Kielの広報、Füchse Berlinの事務局長へインタビューしたことをきっかけに、ドイツの地でプロハンドボールクラブのマネージャーになることを志す。帰国後間もなく退職して渡独。
現在、マインツ大学大学院Internationales Sportmanagementコースへ入学を目指し語学勉強をする傍ら、通訳、仲介人、フリーライターとして活動中。