<機関誌2010年8月号巻頭言>


「新しい小学校学習指導要領の全面実施に向けて」



          (財)日本ハンドボール協会参事・学校体育検討専門委員会委員長 佐藤 靖 


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 ハンドボールが小学生にとって良い教材であることは、実際の授業に参与して、子ども
たちがポールや人と関わって自由に動き回ったり、生き生きした表情を浮かべたりするの
を観れば、だれでも十分納得できます。しかもこのような良さは、これまで多くの場で発
表されるようになった実践報告や実践研究のなかで、様々な視点から検証されてきた事柄
でもあります。そして、特にハンドボールの教材価値を公的に示しているのは、文部科学
省が告示する教育課程の基準、すなわち学習指導要領(以下、指導要領と記す)と、その
より詳細な事項を記載した指導要領解説における内容の変遷です。

 平成20年3月に告示された指導要領の改訂の背景には、体育科の目標・内容を、
(1)身体能力(体力と運動技能)、(2)態度、(3)知識、思考・判断、の3つの枠
組みから整理し、それらを確実に習得させた結果として、生涯スポーツを営む資質や能力
を保証しようとする意図がありました。その際、特に種目の多彩な広がりを呈している
「ボール運動」や「球技」については、それらの内容を整理する必要性に迫られたのです。
そこで、学習内容の明確化を図るために、戦術的な動きという視点から似ている種目を類
型化し、子どもの発達段階に応じて適切な教材を評価し、選択できるように検討されまし
た。その結果、小学校第3・4学年の「ゲーム」から高等学校の「球技」までの内容が、
現行の種目名の列挙から大きく改変され、一貫して、「ゴール型」、「ネット型」、「ベー
スボール型」の3類型で示されるようになったことは特筆に値します。そこでは、個別の
種目を越えて、同じ型のなかで共通に学習できる技能があるという認識に基づいて、それ
ぞれの学習内容が明示されています。

 ここで、小学校体育におけるハンドボールに関する記載を見ると、現行の指導要領解説
体育編(平成11年5月)の第5・6学年の「ボール運動」については、内容の取り扱いで、
「…ハンドボールなどその他のボール運動を加えて指導することができる」(p90)とな
っています。一方、新しい解説(平成20年6月)の第3・4学年の「ゲーム」については、
例示として、「ハンドボール、ポートボールなどを基にした易しいゲーム(手を使ったゴ
ール型ゲーム)」(p50)と明記され、第5・6学年の「ボール運動」については、内容
の取り扱いで、「ゴール型」はバスケットボール及びサッカーを、「ネット型」はソフト
バレーボールを、「ベースボール型」はソフトボールを主として取り扱うが、「これらに
替えてそれぞれの型に応じたハンドボールなどのその他のボール運動を指導することもで
きる」(p71)と変わっています。そして、「ゴール型」の例示として、「ハンドボール」
(p72)も明記されています。現行と較べると、ハンドボールの取り扱いがより重要視さ
れるようになったことが一目瞭然です(下線は筆者による)。

 総じて、種目選択の幅を広げながらも、型に共通する技能を系統的に育成しようとする
意図はよく理解できます。とはいえ、その反面、実際の指導に際しては、各類型や個別種
目間の差異を明確にしておかないと、それぞれの種目を教える意味がわからなくなります。
我々指導者は、子どもの現状の把握とともに、個別種目に特有の運動特性に対する認識を
欠落させることはできません。例えば、小学校第5・6学年の子どもが、ハンドボールで
ボールを受けるための動きを学習する場合、どのような目標像をもたせて、何を身につけ
させるのかということが、指導上、中核的な問題となるからです。

 新しい教育課程の基準は、平成23年4月から全面実施されることになっています。ハン
ドボールが主要教材に替わるものとして注目されるようになった今こそ、ハンドボールを
伝承する場において、だれもが具体的な運動像を設定できるように、我が国の子どもたち
の発育・発達に見合ったゴール型教材としてのハンドボールの構造体系と指導体系の構築
を急がねばなりません。



  (財)日本ハンドボール協会機関誌「ハンドボール」2010年8月号より転載