<機関誌2006年10月号巻頭言>


新たな「競技の健全化」を目指して



                 (財)日本ハンドボール協会常務理事  江成 元伸 

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 8月に広島市で開催された第11回ヒロシマ国際ハンドボール大会・第10回アジア男子ジ
ュニア選手権兼2007年世界男子ジュニア選手権アジア予選は、大会直前にオマーンの棄権
がありましたが11チームの参加を得て、大成功で終了することができました。日本代表チ
ームは善戦及ばず、大変残念ながら5位で終わり、念願の世界選手権出場は夢と終わりま
した。

 各試合を見ましたが、極東は言うに及ばず中東も含め、アジア全体のジュニア層の力量
が非常に高いということが印象に残りました。決勝戦のクウェート対韓国戦は一進一退の
攻防の中で、クウェートチームは日本を苦しめた韓国の固い3:2:1ディフェンスを1
:1の攻防で切り崩し、ミドルシュート、サイドシュートを決めていき、見事4連覇を成
し遂げました。2位となった韓国チームも華麗なステップ、強いディフェンス力は相変わ
らずの脅威でした。3位のサウジアラビアは、予選で日本を苦しめた身長の高い中国チー
ムのシュートをことごとく阻止し、固いディフェンス力を誇示しました。中国は韓国人コ
ーチの指導の元、高い身長を利して激しい身体接触をものともせず試合を展開していまし
た。

 アジアの高い競技力は、日本のジュニア層の目標設定を大幅に変える必要があることを
痛感させましたが、もう一つの関心事はコート上での選手、役員のマナーの良さでした。
大会当初の印象として、外国チームの選手は警告、退場の判定に対してまったく不服の態
度、表情を見せずに素直にベンチにもどっていき、ある意味では日頃国内で試合を見てい
る印象と異なり、なにか違ったハンドボールを見ているような感じでした。この印象を協
会の役員や審判関係者と話していたところ、まさにコート上で外国チームの選手が判定に
対して小さく手を広げるというアピールをしました。審判員は即座に退場の処分を下し、
選手はそれこそ一目散にベンチに戻っていく姿を目にしました。選手がクレームを付けな
い理由が判明しました。審判員の判定には素直に服従する、従わなければ試合に出場でき
ない、ということです。その後もある試合で、ベンチ役員のヘッドコーチに警告が与えら
れ、そのヘッドコーチはしばらくは立ち上がらずに他のコーチに指揮を任すという光景も
見られました。今でこそチーム役員には警告−失格という処分から、2分間退場−選手の
指名退場という処置が執られるようになり、多少のアピールは続けられますが、プロのヘ
ッドコーチはリスクを負わないのだと感心したものです。この大会のスポーツマンシップ
に関する行動様式は、80年代後半から90年代後半にハンドボール界で叫ばれていた「クリ
ーンハンドボール」の試合展開を彷彿させるものでした。97年の熊本で開催された世界ハ
ンド以降、日本ではスクールハンドボールからの脱却というスローガンの元、ハードプレ
ートラフプレーの区分が曖昧になった感がありました。久々にすがすがしいプレーを見た
なというのが印象でした。もちろん、このような試合運営は高く、適切な審判員の技量が
なくてはならないことは言うまでもありません。

 体と体をぶつけあう激しいプレーで観客を魅了し、1点でも多くの得点をあげ、1点で
も少なく防御するスリリングな試合は、必ずや多くの新しいファンを獲得できるものと信
じています。激しいプレーの結果としての反則−判定に対しては素直に従い、スムーズで
スマートなゲーム運営をし、試合終了とともにお互いのチームの選手同士、チーム役員や
審判員と互いの健闘をたたえ合うような試合を望み、その結果として満員のアリーナの観
客の皆様方とハンドボールの醍醐味と感動を共通に分かち合いたいものです。


  (財)日本ハンドボール協会機関誌「ハンドボール」2006年10月号より転載