平成15年3月1日

ハンドボール関係各位

(財)日本ハンドボール協会

審判部長 斉 藤   実

通   達

 平成15年2月10日付けで、平成15年4月1日より実施予定の「禁止事項」と「許可事項」について通達したところですが、「ステップの数え方に関する見解」のみについては「ステップの数え方に関する見解(第2報)」のとおりに変更いたします。したがいまして、平成15年4月1日より「ステップの数え方に関する見解(第2報)」に基づいて競技を実施することになります。つきましては、プレーヤー・トレーナー・レフェリー・マッチバイザー等、ハンドボール関係各位に周知徹底方よろしくお願いいたします。参考資料
*研修ビデオの販売について

経   緯

 昨年末、国際ハンドボール連盟の競技規則・審判委員会(IHFPRC)から、ステップ(歩数)の数え方に関する映像研修資料が届きました。この映像の内容、これを作成したHans Thomas (ドイツハンドボール協会の審判員教育部門)氏への質問(2回)に対する回答の内容、そしてドイツのハンドボールレフェリー専門誌「Schiedsrichter」に掲載されたHans ThomasManfred Prause(IHFPRC)の共著論文の内容をもとにして、平成15年2月12日付けで通達を行いました。しかし、その後の2月24日に、日本協会審判部の質問に対するIHFPRC委員長のKjartan K. Steinbach氏の回答が届きました。早速、これに基づいて「ステップの数え方に関する見解(第2報)」を作成した次第です。

 (財)日本ハンドボール協会審判部では、競技規則および競技規則解釈について,常に最新かつ正確な情報を速やかに全国のハンドボール関係者に伝えることを念頭に置いて事業活動を行っています。それゆえ、先般の通達直後に追加見解の通達を出したことをご了解いただき、ハンドボール競技の発展のために皆様のご協力・ご理解をお願いいたします。

追加変更内容

自分自身で床にはずませた(ドリブルをした)ボールを、足を移動させた後につかむ場合

 ・床に足をつけている状態でボールをつかみ(第1歩)、次のステップを使ったとき(第2歩)

・空中でボールをつかんでから着地し(第1歩)、次のステップを使ったとき(第2歩)

詳細は,下記をご覧ください。


ステップの数え方に関する見解(第2報)

【用語についての注意】

 今回IHFPRCが出したステップの数え方に関する統一見解において、最も注意しなければならないことは、他のプレーヤー(味方のプレーヤーや相手チームのプレーヤー)が投げたボールを「受け取る」場合と、自分自身でドリブルをしたボールを「つかむ」場合とを明確に区別している点である。これまで、ボールをキャッチする、あるいはボールに触れるという言葉も用いられてきているが、本稿では今回の統一見解の意図を正確に伝えるために「ボールを受け取る」と「ボールをつかむ」という用語を区別して説明する。

【ステップの数え方に関する統一見解が出された背景】

 ドイツのハンドボールレフェリー専門誌「Schiedsrichter」の中で、Hans Thomas (ドイツハンドボール協会の審判員教育部門)とManfred Prause (IHFPRC)は次のように述べている。

 世界各国のトレーナーやレフェリーたちのステップの数え方は曖昧である。特にドリブルをした後のステップの数え方は問題であり、2通りの解釈が実在している。事実、ドイツ国内ですら、ブンデスリガのレフェリー、個々のブンデスリガ・トレーナー諸氏、個々の国内トレーナー諸氏の間で解釈が統一されていない。これは、アンケートの回答を見れば一目瞭然である。2通りの解釈とは、@ 自分自身でドリブルし、空中でそのボールをつかんで着地した場合、その足を第0歩とする(まだステップを使っていない)、A 自分自身でドリブルをし、ジャンプして空中でそのボールをつかんで着地した場合、その足を第1歩とする(もう既に1歩使っている)、というものである。ステップの正しい数え方は A であり、@ の解釈は誤っている。ステップの数え方を統一するために、トレーナー・レフェリー諸氏は議論を続けていかなければならない。

 日本における従来の解釈は @ に相当するものだったため、A に改めることになった。世界的規模での統一が呼びかけられたため、皆様方のご理解とご協力を賜りたい。念のために申し添えておくが、解釈が変更されるのは自分自身でドリブルしたボールを空中でつかむ場合のステップの数え方である。他のプレーヤー(味方のプレーヤーや相手チームのプレーヤー)が投げたボールを受け取る場合のステップの数え方は、従来の解釈と同じである。

【ステップの数え方 ―― 解釈】

 IHFPRCより送付されてきた映像研修資料(各事例について具体的に説明されているが、ステップに関する解釈については言葉で呈示されていない)、ならびにIHFPRCKjartan K. Steinbach委員長への質問に対する返答の内容を合わせると、次のような解釈が成り立つ。

★ 他のプレーヤー(味方のプレーヤーや相手チームのプレーヤー)が投げたボールを受け取る場合

  ・床に足をつけている状態でボールを受け取り(第0歩)、次のステップを使ったとき(第1歩) 参照イラスト

  ・空中でボールを受け取ってから着地し(第0歩)、次のステップを使ったとき(第1歩) 参照イラスト

★ 自分自身で床にはずませた(ドリブルをした)ボールを、足を移動させた後につかむ場合 要注意

  ・床に足をつけている状態でボールをつかみ(第1歩)、次のステップを使ったとき(第2歩) 参照イラスト

  ・空中でボールをつかんでから着地し(第1歩)、次のステップを使ったとき(第2歩) 参照イラスト

IHFPRCより送付されてきた映像研修資料を参照されたい。

【ステップの数え方 ―― 例】

 次に例を示す。ただし、以下の「足を他の場所に移動する」とは、「片足を他の場所に移動させた後に、他方の足を引きずり寄せる」場合(7:3の注)を除く。

★ 他のプレーヤー(味方のプレーヤーや相手チームのプレーヤー)が投げたボールを受け取る場合

1.    両足が床についている状態でボールを受け取る(第0歩) 左足を他の場所に移動させる(第1歩) 右足を他の場所に移動させる(第2歩) 左足を他の場所に移動させる(第3歩)

2.    右足が床についている状態でボールを受け取る(第0歩) 左足を床につける(第1歩) その左足でジャンプして両足同時に着地する(第2歩) 左足を他の場所に移動させる(第3歩)

3.    ジャンプして空中でボールを受け取る 左足で着地する(第0歩) その左足でジャンプして両足同時に着地する(第1歩) 右足を他の場所に移動させる(第2歩) 左足を他の場所に移動させる(第3歩)

4.    ジャンプして空中でボールを受け取る 両足同時に着地する(第0歩) 左足を他の場所に移動させる(第1歩) 右足を他の場所に移動させる(第2歩) 左足を他の場所に移動させる(第3歩)

★ 自分自身で床にはずませた(ドリブルをした)ボールをつかむ場合

1.    ボールを床にはずませている間に前に進む 両足が床についている状態でボールをつかむ(第1歩) 左足を他の場所に移動させる(第2歩) 右足を他の場所に移動させる(第3歩)

2.    ドリブルをしながら移動する 右足が床についている状態でボールをつかむ(第1歩) 左足を床につける(第2歩) その左足でジャンプして両足同時に着地する(第3歩)

3.    ボールを床にはずませている間に前に進む ジャンプして空中でボールをつかむ 左足で着地する(第1歩) その左足でジャンプして両足同時に着地する(第2歩) 右足を他の場所に移動させる(第3歩)

4.    ドリブルをしながら移動する ジャンプして空中でボールをつかむ 両足同時に着地する(第1歩) 左足を他の場所に移動させる(第2歩) 右足を他の場所に移動させる(第3歩)

5.    両足が床についている状態で、他のプレーヤーが投げたボールを受け取る(第0歩) 足を動かさずにボールを床にはずませる(第0歩のまま) 足を動かさずにボールをつかむ(第0歩のまま) 左足を他の場所に移動させる(第1歩 上記4.との違いに要注意)

【競技規則条項における解釈について】

 7:3に述べられている内容は、他のプレーヤー(味方のプレーヤーや相手チームのプレーヤー)が投げたボールを受け取る場合のステップの数え方である。一方、自分自身でドリブルをしたボールをつかむ、あるいは床に一度はずませたボールをつかむ場合のステップの数え方(7:4の8行目に記載されている「3歩」の数え方)は、7:3に述べられている内容と異なる。この数え方に相違が生じる理由として、次の叙述がヒントになるかもしれない。

「第0歩とは、ボールと手が最初に接触した状態にあるときに、床に最初に接触した足(ステップ)のことを指す」と定義される。したがって、すでにドリブルをした後では、もはや最初の接触と言えない。また、ドリブルは特殊なプレースタイルである。(Hans Thomas Manfred Prauseによる)






参考資料

ステップの数え方に関する考察

(財)日本ハンドボール協会 審判部

長     斉藤  実

競技規則研究委員長 岸本 光夫

【はじめに】

 今回の「ステップの数え方に関する映像資料(IHFPRC)」が世界各国に配布され,ドリブルをした後のステップの数え方について,世界はもちろんのこと日本国内においても,大勢のレフェリーやトレーナー・プレーヤーたちは混乱している。そこで,この映像資料と,これを作成したHans Thomas氏への質問に対する回答,Hans Thomas氏とManfred Prause氏がドイツのハンドボールレフェリー専門誌Schiedsrichterに投稿した共著論文,さらにはIHFPRC委員長のKjartan K. Steinbach氏への質問に対する回答をもとに,以下のような考察を行った。

【第0歩の定義=最初の接触】

第0歩とは,ボールと手が最初に接触した状態にあるときに,床に最初に接触した足(ステップ)のことを指す。この状態を単に「最初の接触」と呼ぶことにする。

足(片足または両足)が床についているときに,他のプレーヤーからボールを受け取れば(ボールと手が最初に接触した状態),今床についている片足または両足(床と足の最初の接触)が第0歩となる。

ジャンプしている最中に(空中で),他のプレーヤーからボールを受け取れば(ボールと手が最初に接触した状態),着地した片足あるいは同時に着地した両足(床と足の最初の接触)が第0歩となる。

 他のプレーヤーからボールを受け取った後,ボールを床にはずませる(ドリブルまたはバウンド)ために一旦ボールを手から離せば,次からのボールと手の接触は2回目以降となる(もはや最初の接触とはいえない)。したがって,自分自身で床にはずませたボールを,足を移動させた後につかんだ際には,第0歩の適用はありえない。

【ステップの数え方の原則】

基本的には,ボールを手に持った状態でのステップ毎に1歩ずつ数えていく。例外は「片足を他の場所に移動させた後に,他方の足を引きずり寄せる」場合(7:3の注)である。

【ドリブルをした後のステップの数え方】

第0歩の定義で記載したように,自分自身で床にはずませたボールを,足を移動させた後につかんだ際には「第0歩」の適用はない。したがって,他のプレーヤーからボールを受け取った後にステップを使い,足(片足または両足)が床についているときに,自分自身でドリブルをしたボールをつかんだ場合,床についているその足(片足または両足)が第1歩となる。ジャンプしている最中に(空中で),自分自身でドリブルをしたボールをつかんだ場合には,着地した片足あるいは同時に着地した両足が第1歩となる。

他のプレーヤーからボールを受け取った後にドリブルをし,再びボールをつかんで移動した場合のステップの数え方の例を以下に示す。

(1)   右足が床についている状態で,他のプレーヤーからボールを受け取る(第0歩)→左足を床につける(第1歩)→その足でジャンプして両足同時に着地する(第2歩)→ドリブルをしながら前に進む→ジャンプして空中でボールをつかむ→左足で着地する(第1歩)→右足を床につける(第2歩)

(2)   ジャンプして空中で,他のプレーヤーからボールを受け取る→両足同時に着地する(第0歩)→右足を他の場所に移す(第1歩)→左足を他の場所に移す(第2歩)→さらに右足を他の場所に移す(第3歩)→ドリブルをしながら前に進む→左足が床についた状態でボールをつかむ(第1歩)→その足でジャンプして両足同時に着地する(第2歩)

(3)   両足が床についている状態で,他のプレーヤーからボールを受け取る(第0歩)→左足を他の場所に移動する(第1歩)→右足を他の場所に移動する(第2歩)→ドリブルをしながら前に進む→両足が床についている状態でボールをつかむ(第1歩)→左足を他の場所に移動する(第2歩)

 しかし,両足または片足が床についている状態で他のプレーヤーからボールを受け取り,足はそのままの状態でドリブルをしてボールをつかむ場合,次のように数える。

(4)   両足が床についている状態で,他のプレーヤーからボールを受け取る(第0歩)→その場で(両足とも動かさないで)ドリブルをする(第0歩のまま)→その場で(両足とも動かさないで)ボールをつかむ(第0歩のまま)→左足を他の場所に移動する(第1歩)

上記(3)との違いに注意しなければならない(両下線部)。他のプレーヤーからボールを受け取った際に適用される第0歩がまだ「有効」な(第0歩のままの)状態で自らドリブルをしたボールをつかんだのである。したがって,次の左足が第1歩となる。

【混乱の生じた理由】

基本的に,ボールを手に持った状態で,ステップ毎に1歩ずつ数えていくことは上述のとおりである。他のプレーヤーからボールを受け取った後と自分自身でドリブルをしてからボールをつかんだ後とにおける「第○歩」という命名の違いについて,別角度から考察をしてみることにする。

(5)   左足が床についている状態で他のプレーヤーからボールを受け取る(1つ目のステップ)→右足を床につける(2つ目のステップ)→左足を他の場所に移動する(3つ目のステップ)→右足を他の場所に移動する(4つ目のステップ)

(6)   ジャンプして空中で他のプレーヤーからボールを受け取る→左足を床につける(1つ目のステップ)→右足を床につける(2つ目のステップ)→左足を他の場所に移動する(3つ目のステップ)→右足を他の場所に移動する(4つ目のステップ)

(7)   自分自身でドリブルをしながら移動し,左足が床についている状態でボールをつかむ(ドリブル終了後,1つ目のステップ)→右足を床につける(ドリブル終了後,2つ目のステップ)→左足を他の場所に移動する(ドリブル終了後,3つ目のステップ)→右足を他の場所に移動する(ドリブル終了後,4つ目のステップ)

(8)   自分自身でドリブルをしながら移動し,ジャンプして空中でボールをつかむ→左足を床につける(ドリブル終了後,1つ目のステップ)→右足を床につける(ドリブル終了後,2つ目のステップ)→左足を他の場所に移動する(ドリブル終了後,3つ目のステップ)→右足を他の場所に移動する(ドリブル終了後,4つ目のステップ)

 (5)と(6)の場合は,他のプレーヤーからボールを受け取ったときであるから,「1つ目のステップ」は「第0歩の定義=最初の接触」に相当するので第0歩となる。順次,「2つ目のステップ=第1歩」,「3つ目のステップ=第2歩」,「4つ目のステップ=第3歩」となる。

 一方(7)と(8)の場合は,他のプレーヤーからボールを受け取った後,自分自身でドリブルをしながら移動した場合なので,もはや最初の接触とは言えず「第0歩の定義」に相当しない。したがって「ドリブル終了後,1つ目のステップ=第1歩」,「ドリブル終了後,2つ目のステップ=第2歩」,「ドリブル終了後,3つ目のステップ=第3歩」,「ドリブル終了後,4つ目のステップ=第4歩」となるわけである。

言い換えると,ボールを手に持った状態で,ステップ毎に1歩ずつを数えるという原則が前提にある。そしていわばこの原則の1の特例として,他のプレーヤーからボールを受け取った場合の「第0歩という概念」があり,第2の特例として「片足を他の場所に移動させた後に,他方の足を引きずり寄せる」場合(7:3の注)があると考えることもできる。競技規則書には,この原則の記載がなく,1と第2の特例が7:3でいきなり登場するのである。この原則を当然のこととして受け止めている人が競技規則書を読めば,7:3の記述が「第0歩という概念の定義」という特例を説明していることは容易に理解できるであろう。しかし,この原則を知らずに,競技規則書を読めば,7:3の記述そのものが原則であると理解してしまうであろう。これが,今回の混乱の最たる原因と考えられる。